『画廊と私との豊かなる関係』

全国に画廊の数はどのくらいあるのだろうか!? 銀座に限ってみても200以上はあるというから、かなりの数になるであろう。しかし画廊といっても、〈貸し画廊〉というのは、言葉の正しい意味からすれば、唯のレンタル・アートスペース業であって、画廊とは云えない。あくまでも画廊とは、企画で展覧会を運営している所のみを指すべきである。だが、本当に美術が何よりも好きで、しかも眼識が高く知識もあり、その仕事に人生を賭けている画商となると、絞りに絞っていくと上記を更に削った数の、或は10分の1以下になってしまうのではないだろうか。

 

私の場合は、美大の大学院を出てすぐに、故・池田満寿夫氏の計らいで画廊と契約し、全作品が買取りという所からスタートした。以来今日に至るまで云わゆる筆一本でやって来たわけであるが、それは全て自分の力であると言い放つような愚かな傲慢さは私には無い。今思い起こせば、そこには様々な偶然と幸運な出会いと導きがあって、私は今ここにいるのである。そして最も身近な存在として、前述したような、本気で画廊という仕事に理念と誇りを持っている人達との出会いに恵まれていた事が、やはり大きい事のように思われる。

 

日本の現代美術を画商という立場から牽引して来た佐谷画廊の佐谷和彦氏。版画の可能性をひたすらに追求してきた池田美術の池田一朗氏。近年に画廊を閉じるまで、数多くの私の個展を開催してきたが、池田氏もまた、私が作る作品を個展の前に全て買い取りという姿勢を貫かれたので、私もまた全力でそれに応えうる作品を作ってきた。そしてギャルリー宮脇の宮脇一郎氏。ぎゃらりー図南の川端秀明氏。更には現在、個展を開催中の中長小西の小西哲哉氏。そしてその他の方々を含めて、私は本当にプロと呼ぶべき画商の方々との良き出会いに恵まれて来たと云えるであろう。またその他の画商の方で、私の小さなコラージュを含めれば、その数500点以上、私の作品をコレクションされている方もおられるが、ふと考えてみると、これは、やはり凄い事かと思われる。

 

その方々との出会いによって、私の感性とその作品を評価して頂いているという事は、先ず出会った最初において私の作品を自らのコレクションとして購入される事で、私に対する本気度がストレートに伝わってくる。つまりビジネスという現実よりも先に、その人達の感性と私の感性が確かな証しを持って、そこに形となるのである。そして、それが次なる展開への弾みとなっていくのである。

 

或る年の池田美術でのオブジェの個展の時、オープンと共に真っ先に入って来られたのが佐谷和彦氏であった。佐谷氏は会場を一巡りした後、その場で私の最大のオブジェを即決で購入されたのであるが、実はその作品は、制作時に(・・・・この作品は佐谷氏にコレクションして欲しい)と密かに願った作品なのであった。そして、それが佐谷氏の書斎に掛けられてから数ヶ月後に、アンブレラ計画で来日したクリスト氏が佐谷氏宅へ打ち合わせに訪れた時に目に止まり絶賛の評価を受けた事で、私は大いなる自信を深める事が出来、その後の制作への、ぶれない一つの支えとなっていったのであった。今や伝説的な存在として語られ始めている佐谷氏であるが、本当に私はこの人を始めとして、多くの画商の方々から強くて良き波動を与えて頂いたと思っている。

 

さて、今回の個展は、『芸術新潮』をはじめとして美術雑誌のほとんどが記事として取り扱っている。主題にダンテの『神曲』が絡んでいる事もあるが、強度なコラージュやオブジェが集中した個展となっている。会期は4月5日迄なので、残り10日間ばかりとなった。先日は、佐伯祐三や岸田劉生の作品もコレクションされているという私の熱心なコレクターの方が来られて、複数のコラージュを求められた。今回の個展は大いなる成功の内に終るという予感が、そろそろ立ち始めてきている。

 

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