『交感する不思議な力』

前回のメッセージでお伝えしたように、今、私は二つの個展を同時開催中である。先日、その展示のために銀座の画廊・香月での作業が終わり、もう一つの会場である茅場町の森岡書店に向かうため、私は銀座駅へと向かって歩いていた。

 

・・・・道を歩きながら、私の脳裏に一人の人物の事がふと浮かんだ。シルクスクリーンの刷師で、以前も私の版画集のタイトルページを刷って頂いた刷師の渡部広明さんである。私は近々に新しい表現を展開する為に、その渡部さんを急に必要としていたのである。しかし、渡部さんが引っ越しされて久しい為に連絡先が分らず、私は困っていた。なにしろ不明のままに7年の月日が流れていたのであった。私の銅版画の刷師の加藤史郎さんも渡部さんと親しかったが、彼も、連絡が取れないと言う。では、他のシルクの刷師をと考える人もいるが、日本で最高なシルクスクリーンの刷りの技術を持っている渡部さんが私には必要なのであり、それ以外の発想はなかった。

 

何とか連絡先を見つけなくては・・・・、そう考えながら、銀座駅に着くと、切符売場で駅員と何やらパスモの事で揉めているらしい、大柄の男性の後ろ姿が見えた。そしてその駅員と男性が並んで事務室に入ろうとした時、私の目にその男性の横顔が一瞬見えた。・・・・!! 私は唖然とした。想ったらその人が何故か私の前に現われ出る。その事は度々、このメッセージでも体験を語って来たが、又しても、それが起きてしまった。・・・・その男性は7年以上会わずにいて、しかもつい先程、・・・・近々に何とか連絡先を追跡せねばと想っていたばかりの、その渡部さん本人が、私の前に忽然と現われ出たのであった。

 

さっそく仕事の依頼の話をまとめ、名刺をしっかりともらって私たちはそこで別れた。まぁ、長い人生にそのような偶然は誰にでもあるだろう。しかし、私の場合、想ったら、それがまるで手品のように現われる事の不思議が、あまりに度々と起こってしまうのである。俗に言う予知現象であるが、私はそれを交感現象と意味づけている。

 

オブジェやコラージュを作る時に、私のその能力は全開しているといっていいだろう。不可思議な夢のようなヴィジョンを立ち上げる時、私のそれはインスピレーションの走りとなって作品が出来上がっていく。かつて、アンドレ・ブルトン達シュルレアリストが自動記述に深入りし、深層の内なる他者を見出そうと必死で努力していた事があるが、私にはそのようなものは無用である。〈純粋客観〉と〈集中〉のヴェクトルがクロスして、あたかも稲妻捕りのように、私の場合、作品が生まれ出てくるのである。オブジェとコラージュは、共に“イメージの錬金術”といった要素がある。異種同士が結びついて、全く今までありえなかった謎めいたヴィジョンが立ち上がるのである。誰にでも出来そうな方法論でありながら、内実なかなかに「作品」としてのクオリティーの高さを持って作り得るのが難しいのが、このオブジェとコラージュという各々の技法である。「交感能力」、— この感性の稲妻が銀色の鮮光を持って光り輝き、その冴えを失わない限りは、オブジェとコラージュは共に、私における重要な表現手段としてあり続けていくであろう。

 

 

 

 

 

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