『森岡督行さん・香月人美さん』

今月18日(土)まで個展を開催中の、茅場町にある森岡書店のオーナーの森岡督行さんは、現在40歳である。不思議なご縁で出会ってから個展をするようになり、早いものでもう六回目になる。今回も多くの方々がはるばる遠方から来られたりして、作品が一点、また一点と各々の方のコレクションに入っていっている。ここに来場される方が重なる時間帯があり、そういう時は10人近い方々で、会場が充ち、こちらの応対も大変である。しかし先週の或る日は一日中どしゃ降りの雨となり、珍しく静かな時間が流れていた。私は美術家で、森岡さんは書店のオーナー兼ギャラリストであるが、共に何冊かの著作がある。

 

雨が降っている時、この森岡書店の会場の中で、私たちはお互いの著作をプレゼントし合い、お互いの本を、各々の机の所で読んでいた。私の本は『美の侵犯・蕪村X西洋美術』。森岡さんの著書は『荒野の古本店』(晶文社刊)。既に多くの人に読まれて第3刷目に入っており、5000部以上が読まれている。その本を読むと、森岡さんの人生の一部が見えて来る。書店での修行時代、そして独立、ここ森岡書店の空間との運命的な出会い、・・・・・プラハやパリでの古書探しの苦労話。その足跡を読んでいると、この不思議な青年の面影を残す森岡さんの本質が、夢を追って生きている夢想家である事が伝わってくる。ここに置いてある書籍の質の高さは群を抜いて高く、むしろ海外の書店からの注文が多い。故須賀敦子さんの『コルシカ書店の仲間たち』のような、伝説的な書店兼ギャラリーとして、この森岡書店は今後、語り継がれていくに相違ない魅力に充ちている。

 

今月25日(土)まで個展を同時開催している銀座の画廊香月のオーナー・香月人美さんも、また謎の人である。先達として尊敬している美術家の池田龍雄さんなどの個展を度々開催しているが、その池田さんから私に、この画廊で個展をという話があり、私は応える形で個展を開催し、今回で二回目になる。今回の個展で、私は香月さんからの提案で案内状に載せる為の短文を書いた、それが以下の文である。

 

「画廊香月は、密室めいた一つの劇場空間である。その中で私の作品の登場人物たちは、ロココやバロック、そしてルネサンスやロマネスクな衣裳のままに妖かしの肉体性を帯びて、ミステリアスで艶やかなる競演を呈してくる時がある。美の断片が持つ不思議な表情を、この画廊は時として見せてくれるのである。」

 

私はそのように記し、この画廊での個展のタイトルを「百の断片 ― ベッリーニの計測される二つの感情」にした。上記の文をお読み頂ければ、タイトルの意味が透かし見えて来ようかと思う。さて、香月人美さんであるが、舞踏家の大野一雄氏に師事した舞踏家でもあり、ラジオのパーソナリティーも務め、また詩人でもあり……と、様々な表現の世界を歩んで来られた経緯がある。実に表現力が豊かであり、画廊に来られた方々に語る、私の作品についての分析も深いものがある。今週からは天気も少しずつ回復し、多くの方々との出会いが待っている。秋までは作品の発表をしないので、この二つの個展の後には、制作への集中という長い〈沈黙〉が待っている。故に、今回の個展での私の「現在形」をご覧いただければ幸甚である。

 

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