『宗達①』

京都に行く前に名古屋に寄り、SHUMOKU GALLERYの居松篤彦さんに、先日の高島屋の個展に来られた折りに即決で購入を決められた、拙作のオブジェをお渡しした。今回の個展の出品作の中でも大作の為に、配送よりも万が一の安全を考えて直接の手渡しにしたのである。居松さんは未だ37歳の若手画廊主であるが、画商をされているお父さんも、以前から拙作のオブジェやコラージュを買われているので、父子二代に渡って私の作品をコレクションして頂いている事になる。やはり何かのご縁があるのであろうか。居松さんと4時間ばかり発展的なお話を交わして、私は京都へと向かった。

 

京都駅では、立命館大学教授で建築家の平尾和洋さんが出迎えに来てくれた。平尾さんとは、25年前に共に留学生としてバルセロナで出会って以来、親交を深めてきた楽しい旧知の仲である。彼は、京都大学の学生時は首席を通したというだけに頭の回転が早く、また知的好奇心が強く、いつ会っても会話は八方に飛んで話題が尽きる事が無い。会話にエスプリの妙がある大切な友人である。私達はバルセロナからパリ、そして日本に戻ってからも親交を深め、建築と美術の境を楽々と越えていろいろな話しを交わして来た。今では京都にとどまらない関西建築界の雄的存在であるが、権威という陳腐なものに全く捕らわれない、自由な精神の持ち主である。

 

駅前から平尾さんと共に私達が向かったのは 、「五条」にあるミステリゾーンとも言うべきエリアである。この場所がタイムスリップ的な場所である事を教えて頂いたのは、日本橋高島屋美術部の福田朋秋さんからであった。福田さんは美術企画の名プロデューサーとしても優れた人であるが、今一つの意外な顔も持っている。…それは、路上探索の名人であるという事である。…私は福田さんから、特に関西地方の各所にある、ミステリー、さらにはトワイライトゾーンというべき場所について、いろいろな話しを折に触れて伺ってきた。その中でも、京都の五条近辺は、言われてドキリと気付く盲点のような場所であった。

 

…平尾さんと一緒に、その五条界隈を夕暮れに歩いていると、たちまち夜の帳(とばり)が下りて来て、辺りは明治から昭和前のディ-プな懐かしい気配が漂いはじめて来て、この高瀬川に沿った辺りは、谷崎潤一郎の『陰影礼讚』に通じる闇の相を顕にしはじめた。亡くなって久しい人の声がふと聞こえてきそうな感じである。そして高瀬川の水面が幻惑的である。巨大な廃屋に出くわすと、平尾さんの建築学上の説明が入るので、この界隈ならではの魅力が更に深く見えてくる。清水五条界隈から宮川町は、かつてははんなりとした艶のある風情があったものだが、今やそれは中国資本によって荒らされている。唯、この五条界隈に、私は私が求めている京都の何ものかを、そこに透かし見たのであった。 …かくして平尾さんと私は祇園の一角で話しこみ、夜半まで楽しい会話は続いたのであった。明日は、いよいよ『宗達』を見るのである。 ― 次回につづく。

 

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