謹賀新年・ 今年も徒然なるままに様々な角度から書いていくつもりでおりますので、ご愛読のほどよろしくお願いします。
さて、年明けと共に思い切ってアトリエの改装に入り、今もなお続いている。オブジェの制作を中心にした空間を考えているのであるが、それに伴い、不要な文芸書およそ500冊くらいを先ずは処分する事にした。…とは言いながら、片付けていると、カフカの自選短編集『観察』などに目が止まり、外の芝生に椅子を出して読み耽ってしまい、遅々としてなかなか進まないのである。
先日(8日)、川田喜久治さんの写真作品展「Last Things」のオ-プニングに行く。会場のギャラリーは、PGI(東京都港区東麻布2-3-4 TKBビル3F)。…昨年の冬から春にかけてロンドンのテ−トモダンで企画開催された、川田さんを含む主要な写真家達による大規模な写真展を見る予定でいたのであるが、あいにく私の二つの個展が同時期に重なってしまい、念願のロンドン行を果たせずにいた。昨年秋の高島屋での私の個展に川田さんが来られ、その時の写真展の図録と川田さんの貴重な作品集をプレゼントして頂き恐縮していたのであるが、今回の個展はその意味でも年末から楽しみにしていたのである。PGIは昨年末にこちらにギャラリーの場所を移した由であるが、今回の方が全体がゆったりと見れて私は好感を持った。会場の各面に主題ごとに、異なる文体とも言うべき様々な切り口で虚と実のあわいを縫う様にして、写真術師 川田喜久治さんの手による異界の断層が、強度な深いマチエ-ルを帯びて開示されている。
私の見るところ、写真界の現在の傾向として、そのほとんどの写真家達は、いかにもこの方向こそが私の専売特許とでも主張したげに、観念をモ-ド化へと繋げることに必死なあまり、写真本来の光と闇が産む毒性を忘れており、総じての単眼化に陥っているように私には思われる。… この点、川田さんの場合は、光と闇が生み出す毒性と観念、更には対象を客体(オブジェ)として客観的に突き放し、かつ絡め取る技(或いは術)、更には表現におけるア-ティフィシャルというものの熟知…などの塩梅が絶妙であり、複眼としての独歩を悠々と唯一人歩いているように思われるのである。…出品作品の中では、暗緑色に領された、テムズ河近くのグロ−ブ座(shakespeare)を高みから映した作品と、不穏な四谷の崖沿いの二つの小屋を写した作品に特に強く惹かれるものがあった。会期は3月5日まで開催中。ぜひご覧になられる事をお薦めしたい必見の展覧会です。