銀座の画廊香月での個展が先日盛況のうちに終了した。3月に開催された富山のぎゃらり-図南での個展の後で、すぐにパリで撮影を敢行し、開催予定が急きょ繰り上がった為に、その後で個展が続く形となり、かなりハ-ドな日程であったが何とかやり遂げる事が出来た。そして何より新たな試みがコレクターの人達の支持するところとなり、図南と香月の個展で、新作の多くが次々とコレクションされていった事は、大きな自信と手応えに繋がるものがあった。それは、未知の領域に意欲的に挑んで行く何よりの励みとなってくれるのである。 …しかしあらためて考えてみると、作品の秘めた暗示の核に在るものが直に伝わり、それを観者が受け取るという事は凄い事であり、それはまたコレクターの人達との不思議な交感のドラマであると思う。その意味からも、感性の高いコレクターの人達に私は恵まれていると、つくづく思うのである。
…先日、私は銀座のギャラリー「中長小西」で開催中の展示を観に行き、井上有一の凄みある書の作品に接する事が出来た。中長小西のオ-ナ-の小西哲哉氏の鋭い眼識が選び出す井上の作品はいつも、彼の作品中でも最もハイレベルな作品に厳選されている。…その表現主義的な息の流れとその寸秒の軌跡は、あくまでも流麗であり、かつ魔的なものがあり、タピエスやポロックの詩情へと繋がる馥郁たるものを、私はそこに覚えた。…そして奥の別室に掛かっている、これもまた凄い気を放つ書に全身が惹かれ、近くに寄ってみると、それは本阿弥光悦の見事なる極まりの書であった。…正に中長小西とは、眼の至福の空間であり、観る者をして観照の「静か」を深く強いて来る、現代の喧騒を超越した実に稀有な空間である。 —私は来年の春に、この中長小西で三回目の個展の企画が入っているが、その時に展示する作品は、美術史の中で誰も挑戦しえなかった素材に挑む事を構想しており、その技術を高みへと昇華する為の研究を以前より進めている。…また今年の9月28日より開催される、日本橋高島屋本店・美術画廊Xでの新作の制作を、いま集中的に進行させている。…この個展では、二つの主題を一つの個展の中で絡めるという、かなり強度でアクロバティックな試みを行う事になっている。新たな試みに挑む意欲は、画廊空間の独自性と密接なものがあり、展示空間を一つのフィクショナルな劇場空間として見立てる私には、個展の主題とも関わってくるものがある。…ともあれ、これからの日々は、アトリエに籠っての長い制作の日々が待っているのである。