『10月8日』

今日は、いささかインターナショナルな日であった。日本橋高島屋本店の前は、オリンピックメダリスト達のパレードで何十万人という人々でわきかえっていたが、私はその時、高島屋内の個展会場にいて、作品に当てる照明の再チェックをしていた。……そこに外国人のご夫妻が来られ、拙作のオブジェの数々を凄い集中力で観はじめたのであった。そして、画廊のスタッフを側に呼んで「This」、「This」、……and「This」と言って三点のオブジェの購入を即決で決めていった。ただ者ではないな……と思って訊くと、果たしてロンドンで画廊を商っているギャラリストであった。以前に、日本の現代美術を牽引していた佐谷画廊の企画展で、デュシャンやシ―ガルらの作品と共に私のオブジェを五点出品していたが、その時も、同じくロンドンで現代美術を商っている有名な美術商の方が即決で私の全作品を購入されたが、その時の即決の速さを、私は思い出したのであった。美意識の確かなるものを持っている彼らの直観力は、さすがに鋭いものがあり、私はそこに強い手応えを覚えたのであった。……別な個展の時にも、ル―ヴル美術館の前にあるギャラリ―のオ―ナ―が私の作品を購入し、その作品は今も売らずに画廊で愛蔵されているが、ともあれ、彼らの即断でコレクションを決めていく速さを見ていると興味深いものがある。

 

……以前にもこのメッセージ欄で記したが、パリのパサ―ジュ「ヴェロドダ」で古書店を商っているベルナ―ルゴ―ギャン氏からお手紙を頂いた事があったが、その手紙には、「君の作品を私に任せてくれたら、短期間で全ての作品を完売する自信がある。一度本気で考えてみてほしい」と記してあった。……このゴ―ギャン氏にはもう1つの顔があり、かつてはジャン・ジュネや、ウォホ―ル、ホックニ―達とも親しく、またハンスベルメ―ル作品の世界最大のコレクタ―でもあり、パリにおける人脈の厚い層を持つ。故に手紙の文面は本気であり、自信に裏付けされた力強いものがあった。作品を預けると間違いなくゴ―ギャン氏は短期間で完売する事は間違いない。……しかし、私はあえて海外でオブジェ展を開催するという考えは持っていない。……というのも、私は大量に作る作家ではなく、一点一点緻密に作り上げていく為にかなりの時間を要してしまう。……今まで作ったオブジェだけで500点以上はあるが、いま私のアトリエには全く旧作が残っていない。先に述べた海外のコレクタ―以外は、全て国内のコレクタ―の人達のコレクションに入っており、私はその事に表現者としての強い手応えを覚えているのである。

 

午後になって、昨日二点のオブジェを買われた、日本画のコレクタ―として知られる方が再び来られて、新たに追加で四点のオブジェを即決で購入され、私を驚かせた。その後で、アメリカと中国の方が各々に来られてコラ―ジュを購入された。……午前中に来られたロンドンの画商の方は、そのまま帰国されるので、手持ちで三点のオブジェを持ち帰られた。かくして個展の最初に展示されていた「ペトルス・クリストゥスの幾何学的肖像」(先のメッセージの画像に掲載した)他、つごう三点のオブジェは今はロンドンにあり、これから愛蔵されていく事を思うと、作品各々の運命に、作者としての感慨もまた立って来るのである。……個展は17日(月曜)まで開催されるが、また新たな出逢いが今週もあるように思われる。

 

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