『四月・新たなる次の個展へ』

東京銀座・画廊香月での個展が盛況のうちに終了した。昨年秋に開催した日本橋高島屋・美術画廊Xでの私の個展で、オブジェを16点まとめて購入された著名なコレクタ―の方が初日に来られて、今回の個展でも5点の作品を選ばれてコレクションされたのを筆頭に、作品が次々とコレクションされていき、最終日の昨日は、はじめてお会いした、小説を執筆されている若い女性の方がオブジェを一目観て気に入り二点買われたりするなど、昨年の画廊香月での個展を上回る数の作品が私の手元を離れて、眼識の高い美意識を持った人達との深い観照の場、……作品とその人とが長い対話を交わしていく形而上的な交感の旅へと旅立っていった。

 

 

昨日の個展の最終日は、しかし慌ただしかった。私との共著もある、わが国の代表的な詩人の一人・野村喜和夫氏と、奥さまのフラメンコ舞踊家の眞里子さんによって建てられた〈詩とダンスのミュ―ジアム〉の完成記念パ―ティが5時からあり、引き続きその足で、8時から荻窪のカラス・アパラタスでの勅使川原三郎氏と佐東利穂子さんによる新作のダンス公演「音楽の絵本」を観るために、画廊を4時に出て向かわなければならないのである。……野村氏宅に向かう途中で詩人の高橋睦郎氏と出会い、久しぶりに話を交わした。高橋氏も野村氏宅に向かう途中との由。……ミュ―ジアムに着くと既に多くの人(ほとんどが詩の分野か出版関係者)が来ており、入口から人であふれていた。渡されたパンフレットを読むと、コレクションの作家名に駒井哲郎、戸谷茂雄、吉増剛造、カバコフ、キ―ファ―、オノデラ・ユキ……柄澤斎などの名前があるが、圧倒的に私のオブジェ、版画などのコレクションが多数を占め、各展示室に私の作品が掛かっている。中でもひときわ目を引くのは、その数3000冊を越える膨大な蔵書のある野村氏の書斎であるが、主として天才詩人アルチュ―ル・ランボ―の研究書が多く、その壁面には、フランスのランボ―ミュ―ジアムにも収蔵されている私の版画「Face.of-Rimbaud」や、シェ―クスピアをモチ―フとした珍しい私のオブジェなどが多数あり、それらの作品の傍で野村氏は次々と詩を紡がれてきた事を想えば、熱い感慨が立ち上がる。……ともあれ、二十数点以上の私の作品が今後は常設でこのミュ―ジアムで観られるのである。詩とダンスの発信基地となることを目的として発足したこのミュ―ジアム、ご興味のある方は、エルス―ル財団記念館〈詩とダンスのミュ―ジアム〉を検索されて、お気軽にご覧になられる事をお薦めしたい魅力的な啓発の空間である。

 

 

 

 

 

 

……語り合いたい人が何人かいたがまたの機会にして、荻窪の会場―カラス・アパラタスB2ホ―ルへと向かった。1月の後半から2月に渡って勅使川原三郎氏と佐東利穂子さんは、招聘されてパリのシャイヨ―宮で武満徹の音楽と共に踊る長期の旅に出ていたので、お会いするのは久しぶりである。さて今回の公演「音楽の絵本」はまたしても圧巻であった。タイトルにある平明な装いとは裏腹に、絵本のように捲る1枚1枚の頁が、まるで川端康成の作品「狂った一頁」を想わせて更に華麗豪奢にして美しい狂気がそこに妖しく立ち上がる。美とは〈形而上的な毒杯であらねばならない〉と考える私の髄を突いてくる危うさを極めた、身体によって紡ぎ出されるポエジアの見事な顕現である。今回は佐東利穂子さんが更なる深みと鋼のような鋭さを見せて勅使川原氏と対峙し、正に両者の感性の刃がその切っ先を向け合うような緊張の内に、様々な音楽による聴覚からの侵犯と、視覚による身体表現の可能性が全開して私は久しぶりに酩酊の韻に酔った。……公演後にスタジオの別室で勅使川原氏と暫し話を交わしたが、それは自分が考えている〈美とは何か〉への自問を鏡に映して確認するような手応えのあるものであった。休みなく新作の公演が次々と控えているが、わけても今回の公演「音楽の絵本」(4月1日迄)、ぜひご覧になられる事を強くお薦めしたい、優れた作品である。

 

 

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