京極杞陽

『……去年(こぞ)今年……』

個展が始まった10月半ば頃から急に減り始めた感染者数が、12月の半ば辺りから次第に反転増大を見せはじめ、新顔のオミクロン株なる招かれざる客が欧米を席巻し、今や日本も面的に、その拡がりを見せている。しかし、内実、ジワジワと迫っている眼前の危機は、むしろ地震の方であろう。

 

 

 

 

 

……実は、今年最後のブログは、都市型犯罪として昨今問題になっている自殺願望の犯人からの「巻き添え被害」から身を護る方法について書こうと思っていたのであるが、何故かふと気が変わり、そうだ、地震について書こうと考え直して書き始めたら、正にその数分後の11時33分頃関東地方に震度3の地震が起きた。……私が度々書いている、いつもの予知体験ともまた違う、この直感力。……私は鯰なのであろうか!?

 

……実は昨日、アトリエの奥で、天井の高みまで夥しく積み重なっている作品を入れる硝子の函(約80個くらい)を見て、さすがに地震が来ると崩れて危ないと思い、低く平積みにする作業を終えたばかりであったが、やっておいて良かったと思う、この予感力。……私はやはり、正体は鯰なのであろうか!?

 

……閑話休題、地震についてあれこれ考えていたら、ふと、文芸では地震という主題をどう扱って来たのかが気にかかり、俳句で地震を詠んだのがないかと調べたら、それが続々とある事を知り驚いた。実に数千以上もの俳句があるのである。中でも目立ったのは正岡子規

 

 

・年の夜や/地震ゆり出す/あすの春

 

・只一人/花見の留守の/地震かな

 

・地震て/大地のさける/暑さかな

 

・地震して/恋猫屋根を/ころげけり

 

 

……と.まだ視線は客観的で優しい。他には、幸田露伴の「天鳴れど/地震ふれど/牛のあゆみ哉」。北原白秋の「日は閑に/震後の芙蓉/なほ紅し」……内田百閒の「蝙蝠や途次の地震を云ふ女」……寺田寅彦の「穂芒や地震に裂けたる山の腹」……。例外は、高澤良一という人の句「冷奴/地震のおこる/メカニズム」、……固いマントル、それを深部から激しく揺らす熔けた岩漿(1000度近いマグマ)の関係から地震は起きるので、この冷奴の喩えは、風狂の気取りを装って、一読面白いがいささか俳句の本領からは遠いかと思う。

 

……私の関心を引いたのは京極杞陽の「わが知れる/阿鼻叫喚や/震災忌」・「電線の/からみし足や/震災忌」。……そして圧巻は、1995年兵庫県南部地震で被災した、禅的思想と幻視を併せ詠んだ俳人・永田耕衣の「白梅や/天没地没/虚空没」。……一輪の白梅と、絶体の阿鼻叫喚との対峙、この白梅の非情なる美の壮絶さ。……また詠み人はわからないが、大地震後に襲ってくる、あの背高い津波の是非も無しの魔を詠んだ俳句「大津波/死ぬも生くるも/朧かな」を最後に挙げておこう。

 

 

……思うのであるが、来年の1月中旬から3月末の間にかけて、何やら不穏であったものの極まりが、何らかの爆発の形を呈して露になりそうな、そんな予感がしてならないのは、何も私だけではないだろう。……北川健次、遂に陰陽師として動くのか!?……それとも只の鯰の過剰な妄想だけで、事は収まるのか。…………とまれ、ここは静かに高浜虚子の、去年今年(こぞことし)から始まる名句を挙げて、今年最後のブログを閉じようと思う。

 

……ちなみにこの俳句は、地震ではなく新年が開けた時の虚子の心境を詠んだ句であるが、虚子が住んでいた鎌倉の駅前にこの俳句が貼られた時、それをたまたま通りかかった鎌倉長谷在住の川端康成が一読して、その言葉の凝縮のアニマに打たれ、背筋を電流が走ったという。……昭和25年正月時の逸話である。

 

 

 

「去年今年/貫く棒の/如きもの」

 

 

 

陰陽師・安倍晴明

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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