月別アーカイブ: 11月 2010

『富山・ぎゃらりー図南②』

先月の話であるが、新しく出来たポンピドゥ・センター別館をフランスで見て来られた画家のNさんが、高島屋の個展会場に来られ、私の新作オブジェを見て、興奮気味に「あのセンス抜群の空間(ポンピドゥ・センター別館の事)で、日本人で勝負出来るのはあなただけだ!!」と語ってくれて、その場で迷わずに三点のオブジェを購入された。Nさんがフランスに滞在していた時、実は私の作品がパリ市立歴史図書館で開催中の『RIMBAUD MANIA』に招待出品されていたのだが、私はうっかりNさんにその事を知らせていなかった。Nさんは悔やんだが、その展覧会を見て来られた何人かの知人からは、私の作品がピカソジャコメッティよりも良かったと、感想を告げて頂いた。筆一本の生き方をしている私にとって一番、自信と支えになるのは、そういう評価を頂いた時である。

 

 

先日、富山のぎゃらりー図南を初日に訪れた時、既に私の作品には早くも、購入を決められた印の赤いシールが幾つか付いていた。美術市場は低迷し、若い作家(?)は、お絵描きのような軽い絵を描いてぶれ続けているが、そのような軽い傾向には目もくれず、オーナーの川端さんの眼と信念は全く揺るがない。そして、この画廊に来られるコレクターの方々も、自分の確とした美意識を持っている方が多くおられ、私は再会を楽しみながら、本音で話し合うのである。かつて池田満寿夫氏は「我々のような作り手にとって、最大の批評は言葉ではなく、作品がコレクションされる事である。」という名言を語ったが、それは実感のある至言である。連載中の原稿の締め切りがあるために、富山での滞在は短かったが、帰途の車中に於いて、又、横浜に戻ってからも、川端さんからは、新たに作品がコレクションされた事を知らせてくれるメールが次々と入り、私を驚かせる。自分が作り出した作品には絶対の自信を持っているが、それにしても、ぎゃらりー図南の川端さんと、ここに来られるコレクターの方々の感性には凄みを覚えるものがある。確かな作品を作れば、それは必ず確かな人に理解され伝わっていく。私の信念もまた確たるものとなってくるのである。最近の歪んだ美術の傾向に対する無言の鋭い批評が、ここ、ぎゃらりー図南には在る。未見の方は、ぜひ訪れて頂きたい希有な画廊である。

 

 

ぎゃらりー図南
富山市西大泉17-20 第二浜忠ビルB1
会期:11月13日(土)〜28日(日)
AM10:00〜PM6:00 月曜休廊
TEL/FAX 076-492-5850

 

 

 

 

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『個展・富山・ぎゃらりー図南①』

富山のぎゃらりー図南で、今月13日(土)から私の個展『目隠しされたロレンツォ・ロットが語る12の作り話』が始まる。東京・京都・名古屋で同名の個展を開催して来たが、各々の画廊によって展示内容が全く異なり、その度に新作が加わるという、云はば変容する個展である。そしてぎゃらりー図南が、この謎めいたタイトルを持った個展の最終展示 — 云はば「取り」となる。

 

 

 

オーナーの川端秀明さん御夫妻とのお付き合いも、もう何年になるだろうか。版画集の刊行記念展をして頂いてからだが、初めて御会いした途端、とても話が合い、まるで30年以上の旧知のような印象を覚えてしまった。個展とは、作者と画廊主とで築き上げるコラボレーションの共奏である。だから、この印象の覚えは、間違いなく幸福な出会いであるといっていい。以前から川端さんについては何度か書いてきたが、川端さんの資質の中でも私が最も信頼している好きな点は、批評眼の確かさと、ギャラリストとしての仕事に強いプライドを持っている点である。だから展示自体に創造性があり、再考を何度も重ねて最終的に決定された画廊の空間には、凛とした緊張と品格が漂っている。人は同じレベルの人と結局は結ばれていく。—–その意味で、川端さんの画廊に来られる方々も又、確かな自分の眼を持った人達が多く、ゆえに私は毎回個展の初日に富山を訪れて、再会し、語り合えるのをとても楽しみにしているのである。

 

 

私は最新作の中でも自信のある作品を選んで今回の個展のために出品した。手応えのある展示、それを見る人達、そしてコレクションを決められる人達、そして川端さん御夫妻、——–画廊には暖かい人柄の方々が集われるが、プロフェッショナルとしての力量がいつも厳しく問われる場でもある。だから、やりがいもあるのである。車窓から眺める秋の日本海はしんと静まった叙情に充ちているであろう。また大切な思い出が、ぎゃらりー図南での個展を通じて生まれていくに相違ない。

 

 

 

ぎゃらりー図南
富山市西大泉17-20 第二浜忠ビルB1
会期:11月13日(土)〜28日(日)
AM10:00〜PM6:00 月曜休廊
TEL/FAX 076-492-5850

 

 

 

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『12断片ーPARIS・VENEZIAの黒い廻廊を巡って』

今月の8日(月)から、銀座に在るギャラリー福山で、『12断片ーPARIS・VENEZIAの黒い廻廊を巡って』と題する私の個展が開催される。オーナーの福山幹子さんは70年代には東京画廊に在職していたというから、かなりのベテランである。この画廊を初めて訪れたのは、10年以上も前に開催された、ドイツの銅版画家ホルスト・ヤンセンの個展を見に行った時である。入口の芳名帳に書いた私の名前を見て、福山さんから声を掛けてこられた。私の作品の「質の高さ」をとても気に入っておられるとの由である。口調は熱く、本当に評価して頂いているのが伝わって来た。ならばと、私はそこで「もしよろしければ、ヤンセンの作品と私の作品を交換しませんか?」という図々しい申し出をした。すると福山さんは微笑しながら、「では、ヤンセンを2点とあなたのを2点で」と話され、手元にある三十点近い中から好きなのを選んで良いと言ってくれたのである。早速、翌日に私は作品を持って訪れ、福山さんの気の変わらぬ内にヤンセンの「魚の頭部」とエロティックな作品(何れも秀作!!)の二点を交換したのは言うまでもない。私はこのような交換トレードをいくつかの画廊でして頂き、わが画室には、ルドンゴヤタピエスベルメールメクセペルホックニーetcなどのコレクションが増えていった。

 

その時以来、福山さんからは私の個展を開催したいという御話を頂いていたが、タイミングが合わず、ようやく今回実現したという次第である。未発表オブジェや写真も出品しているので、ぜひ御覧頂きたい内容である。さて、このギャラリー福山は銀座の一角とはいえ、喧噪から離れた、ちょっとタイムスリップしたような場所にあり、私は何回か迷った事がある。念のため、住所とTEL番号をメモしてから来られることをお勧めしたいミステリアスな画廊である。

 

ギャラリー福山
会期:11月8日(月)〜20日(土)日・休廊
時間:12:30〜19:00〈土曜日は17:00まで〉

東京都中央区銀座1-23-4明松ビル303
TEL.03-3564-6363
*有楽町線「新富町」駅から徒歩2分。
(出口 1.2.)音響ビル並び。

 

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『大久保利通登場』

坂本龍馬が凶刃に倒れて143年が経つ。龍馬暗殺の実行犯は、京都見廻り組の佐々木只三郎以下六名が行った事はほぼ間違いのない事と思われるが、その潜伏先が材木商の酢屋ではなく、京・河原町の近江屋である事を彼らに巧みに知らせた人物がいる。すなわち〈影の仕掛け人〉である。その最もあやしいのが薩摩藩であり、西郷・大久保ラインであると云われているが、この説はここ10年くらい前に俄に大きく出て来た説である。しかし私は今から、30年以上前にそれに関する推理を既に立てていた。私がにらんだのは、薩摩の大久保利通と公家の岩倉具視ラインである。この二人のタッグは実に強力で凄みがある。

 

私は11月15日の龍馬暗殺当日の大久保の行動を知るべく、彼の日記を調べてみた。するとその日、大久保は密かに大阪に入り、武力倒幕を実行すべく猛烈に指示しはじめているのである。(まるで、龍馬の死によって、一度は実った大政奉還の流れが覆るのを前提としているかのように・・・。)大久保と岩倉は、西陣で偽の「錦の御旗」を密かに織らせるなどの準備をし、着々と実行に移していく。彼らが交わした書簡の中に、「我々の間には、あの世に行っても絶対に明かせない幾つかの事柄がある」という記述がある。この中に龍馬の件も入るように、私には思われるのである。

 

さてさて、大久保と共に岩倉の資料を調べていくと、その子孫に意外な人物がいるのがわかって面白かった。その子孫とは、若大将こと(古い!!)、加山雄三である。まあ、それはさておき、岩倉・大久保ラインのフィルターは極めて怜悧でその動きと実行力には容赦のないものがある。龍馬暗殺の数日前に寺田屋のお登勢から龍馬宛に危険を知らせる連絡が入っている。その寺田屋の客は最も薩摩が多い。龍馬と中岡に暗殺の危険を忠告しに来たのは、元新撰組伊東甲子太郎(当時は御陵衛士)であるが、彼も大久保に直結する資金面での繋がりがあった。暗殺計画の話が出て、西郷は了承した。おそらく、その辺りが歴史の真実ではないか、そのように私は思っているのである。

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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