月別アーカイブ: 11月 2015

『宗達①』

京都に行く前に名古屋に寄り、SHUMOKU GALLERYの居松篤彦さんに、先日の高島屋の個展に来られた折りに即決で購入を決められた、拙作のオブジェをお渡しした。今回の個展の出品作の中でも大作の為に、配送よりも万が一の安全を考えて直接の手渡しにしたのである。居松さんは未だ37歳の若手画廊主であるが、画商をされているお父さんも、以前から拙作のオブジェやコラージュを買われているので、父子二代に渡って私の作品をコレクションして頂いている事になる。やはり何かのご縁があるのであろうか。居松さんと4時間ばかり発展的なお話を交わして、私は京都へと向かった。

 

京都駅では、立命館大学教授で建築家の平尾和洋さんが出迎えに来てくれた。平尾さんとは、25年前に共に留学生としてバルセロナで出会って以来、親交を深めてきた楽しい旧知の仲である。彼は、京都大学の学生時は首席を通したというだけに頭の回転が早く、また知的好奇心が強く、いつ会っても会話は八方に飛んで話題が尽きる事が無い。会話にエスプリの妙がある大切な友人である。私達はバルセロナからパリ、そして日本に戻ってからも親交を深め、建築と美術の境を楽々と越えていろいろな話しを交わして来た。今では京都にとどまらない関西建築界の雄的存在であるが、権威という陳腐なものに全く捕らわれない、自由な精神の持ち主である。

 

駅前から平尾さんと共に私達が向かったのは 、「五条」にあるミステリゾーンとも言うべきエリアである。この場所がタイムスリップ的な場所である事を教えて頂いたのは、日本橋高島屋美術部の福田朋秋さんからであった。福田さんは美術企画の名プロデューサーとしても優れた人であるが、今一つの意外な顔も持っている。…それは、路上探索の名人であるという事である。…私は福田さんから、特に関西地方の各所にある、ミステリー、さらにはトワイライトゾーンというべき場所について、いろいろな話しを折に触れて伺ってきた。その中でも、京都の五条近辺は、言われてドキリと気付く盲点のような場所であった。

 

…平尾さんと一緒に、その五条界隈を夕暮れに歩いていると、たちまち夜の帳(とばり)が下りて来て、辺りは明治から昭和前のディ-プな懐かしい気配が漂いはじめて来て、この高瀬川に沿った辺りは、谷崎潤一郎の『陰影礼讚』に通じる闇の相を顕にしはじめた。亡くなって久しい人の声がふと聞こえてきそうな感じである。そして高瀬川の水面が幻惑的である。巨大な廃屋に出くわすと、平尾さんの建築学上の説明が入るので、この界隈ならではの魅力が更に深く見えてくる。清水五条界隈から宮川町は、かつてははんなりとした艶のある風情があったものだが、今やそれは中国資本によって荒らされている。唯、この五条界隈に、私は私が求めている京都の何ものかを、そこに透かし見たのであった。 …かくして平尾さんと私は祇園の一角で話しこみ、夜半まで楽しい会話は続いたのであった。明日は、いよいよ『宗達』を見るのである。 ― 次回につづく。

 

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『個展・盛況の内に終了』

3週間にわたる日本橋の高島屋美術画廊Xでの個展が、盛況の内に16日で終了した。今回も多くの方が来廊され、生まれ出たばかりの新作オブジェとコラージュが、鋭い感性を持っているコレクターの人たちの美意識と共振して、コレクションに次々と入っていった。更に今までのコレクターの人たちに加えて、新たなコレクターの人たちとも知り合う機会があり、今後の大きな発展性へと繋がった。また私自身にとっても新作をじっくりと分析出来る機会となり、客観的な視野で様々な事を考え、得るものが多々あった。
来年の秋も高島屋美術画廊Xでの個展開催(連続8回目)が決まり、私は、この広くて緊張感のある空間でしか表現出来ない新たな主題も、既に立ち上げている。…それは誰も着想しえなかった斬新な構想である。来年、私の表現世界はまた一新して拡がりを呈していく事であろう。常に予測の先を行く事は、表現者における宿命であり、醍醐味であり、才能における秘かなる愉楽でもある。更なる新たな負荷を私は自らに課していこうと思っている。
 
さぁ、今は京都国立博物館で開催中の琳派展を、充電の為に先ずは行く事にしている。捕らえがたき大きさと幅を持った宗達という存在が、今は関心の全てを領しているのである。

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『謎の麗人-来たる』

高島屋の個展では、女優やタレントの方が時折来廊されるので、華やいだ雰囲気が立ち上がる事がある。先日もたいそう美しい(麗人というべき)方が現れたが、この方は女優ではなく、会社経営者の雰囲気を放っていた。・・・私は、この方が先の個展にも来られてブル-ジュの版画を買われていた事を思い出した。直感力と高い美意識を持っている人と見たが、果たして、今回は『肖像-フランツ・カフカ』の版画を即決で購入された。ドイツ文学を専門にされていた由。・・・お茶が出され、私達は席についたが、開口一番、その方は、「北川さんは福井のご出身ですよね」と言われた。私は「ええ、そうですが‥」と応えると、その方曰く、「小さい時に、よく一緒に遊んだわねぇ」と、遠くを見るようにして言った。 「!!!???」・・・私はこの突然の切り出しにドキリとした。

 

その方が語るには、私の兄や母親の事もよく覚えているという。事実、兄の名前は合っていた。「お兄さんは暗かったけれど、あなたは本当に可愛いくて、不思議なオーラを放っていたわ」と言われ、私の家のすぐ近くに住んでいたという。・・・「で、貴女のお名前は?」と聞くと、「まぁそんな事はいいじゃないの」と、シャッターの壁を下ろしてしまう。一体、誰なのであろうか・・・?? 私は幼ない頃の遊び仲間の顔をフラッシュバックしたが、記憶は模糊として霧の中である。私の最初の婚約は6才の頃であったが相手は4才の年下であった。今、目の前におられる女性は私より1つばかり年上のようなので、その子ではないようだ。話しが進んで、私と小学校も同じだったという。

 

小学校も同じだった・・・? モデルの道端アンジェリカ姉妹は、小学校の後輩になるが、眼前の女性は、明らかにアンジェリカではない。私は先の個展でお会いした時に、この方が芦屋に住まわれていた事を思い出した。「 芦屋夫人」・・・想像をたくましくさせてくれる響きがあるが、麗人とはいえ、在宅夫人よりはバリバリの女性経営者に、この方は見える。話題を変えて、私は小学校の花壇に咲いていた強い原色のカンナの花が、今、私の頭の中を占めている、という話をした。「・・・花壇花壇、・・・あぁそういえば在った、在った!」と、この方も思い出されたようである。

 

「私は、記憶の中のあのカンナの原色を原点にして、今まで誰も試みていなかった、表現主義と幾何学を混交したペィンティングによる展開を構想しているわけですよ」と語ると、「記憶の中の共有した光景が、表現に変わったのをぜひ見てみたいわ。まとめてコレクションするかもしれないわよ」と手応えのある言葉を返してもらった。 妖しくもあり、少し怪しくもある、眼前の謎の麗人。しかし私にこの人は、何よりも義に熱い人と映った。間違いないくこの方は、次の個展にも現れてくれる人であり、またコレクションもされていかれる方と見て間違いないであろう。・・・いや、それよりもこの方は、次なる新たな挑戦への美神とさえ私には思われるのである。・・・私は良き人との出会いには強い運気を持っている。この方の存在を通して、美の未知なる指針に、今、静かなる導きの何かが私をして動いているのを私は実感するのである。   かくして、この謎の麗人は、画廊に謎のトランプのカ-ドを一枚置くようにして去って行かれた。・・・良き波動をこの空間に残して。

 

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『個展・最後の6日間に』

16日まで日本橋高島屋の美術画廊Xで開催中の個展も、いよいよ残り1週間となった。来客には外国人も多いが、今日は、パリのサンミッシェル街の画廊のオ-ナ-が来廊した。話をしていると、以前に私の作品がパリ歴史図書館での企画展に招待出品された折りに既に見て、私の名前を知っているとの事。今回展示している作品の価格が安いのに驚き、作品の質の高さを考えれば、パリでなら倍の価格でも十分に完売してしまう内容であるという意見をくれた。以前に私に手紙をくれた、パリのパサ-ジュの店主である、年長の友人―ベルナ-ルゴ-ギャン氏と同じ意見である。
 
確かに、作品の価格を、私は意識的に安く設定している。しかし私は若い人達の事を考え、彼らが入手可能な価格であるべきだという思いを強く抱いている。その事を語ると、それよりは、パリを含めた外国で積極的に展示すべきであり、私の可能性はかなり高いものがある、という意見を返してきた。 私の旧作の版画の数点は、複数でありながら、1点しか存在しないオリジナルの、私のコラージュや、オブジェの価格よりも既に高い。それを思えば、確かに彼らのアドバイスは一考に値するものがある。この問題は、しかし後回しにして、今は、美術画廊Xでの個展に集中したい。今回も新たなコレクターの人との出会いに恵まれ、作品が毎日、何点かづつコレクションされていっており、過去の7回の個展で、今回が最も手応えがあるものになっているのは重要な事である。画廊にいると、次の展開がかなり具体的に見えてくる。毎日会場にいるが、そこで自問して得るものは限りなく多いのである。

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『今までで最大規模の個展・開催中』

日本橋高島屋・美術画廊Xでの個展が、ようやく会期の半分を過ぎた。16日まで続くのでこれからまだまだ多くの方々が、遠方からも含め、来て頂ける事を思うと楽しみである。
 
『北川健次 個展 — 美術画廊X』今回の個展はオブジェ作品がふだんの個展の4倍近く出品されているので、特にオブジェのファンの方からの反響も大きく、毎日、作品のコレクションが決まっていっているので、時々展示変えをしている次第である。今回は出品作品の密度がどの作品も濃厚であり、そこから現在の自分のありようが見えてくる。
ともあれ、今回は自分の内面の引き出しを全開にして作ったので、今までになく、また今後も二度とできないような作品が出品作品の半分以上を占めている。ともかく内面の様々な引き出しを全開する事は大事な事である。全てを出し尽くす事によって、ようやく次の可能性が見えてくるのであるから。
 
毎日会場にいるので、どのような方が各々の作品をコレクションされているのか、具体的に確認できるのが面白い。正直な話、自分でアトリエに持っておきたい作品もあるが、やはり、その作品を必要とする人にコレクションされていくのが、その作品にとっても幸福な事である。これから長い時間をかけて作品と対峙し、対話をしていくのは他ならぬコレクター自身である。コレクションという行為もまた、形而上的な創造行為なのである。

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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