月別アーカイブ: 3月 2017

『四月・新たなる次の個展へ』

東京銀座・画廊香月での個展が盛況のうちに終了した。昨年秋に開催した日本橋高島屋・美術画廊Xでの私の個展で、オブジェを16点まとめて購入された著名なコレクタ―の方が初日に来られて、今回の個展でも5点の作品を選ばれてコレクションされたのを筆頭に、作品が次々とコレクションされていき、最終日の昨日は、はじめてお会いした、小説を執筆されている若い女性の方がオブジェを一目観て気に入り二点買われたりするなど、昨年の画廊香月での個展を上回る数の作品が私の手元を離れて、眼識の高い美意識を持った人達との深い観照の場、……作品とその人とが長い対話を交わしていく形而上的な交感の旅へと旅立っていった。

 

 

昨日の個展の最終日は、しかし慌ただしかった。私との共著もある、わが国の代表的な詩人の一人・野村喜和夫氏と、奥さまのフラメンコ舞踊家の眞里子さんによって建てられた〈詩とダンスのミュ―ジアム〉の完成記念パ―ティが5時からあり、引き続きその足で、8時から荻窪のカラス・アパラタスでの勅使川原三郎氏と佐東利穂子さんによる新作のダンス公演「音楽の絵本」を観るために、画廊を4時に出て向かわなければならないのである。……野村氏宅に向かう途中で詩人の高橋睦郎氏と出会い、久しぶりに話を交わした。高橋氏も野村氏宅に向かう途中との由。……ミュ―ジアムに着くと既に多くの人(ほとんどが詩の分野か出版関係者)が来ており、入口から人であふれていた。渡されたパンフレットを読むと、コレクションの作家名に駒井哲郎、戸谷茂雄、吉増剛造、カバコフ、キ―ファ―、オノデラ・ユキ……柄澤斎などの名前があるが、圧倒的に私のオブジェ、版画などのコレクションが多数を占め、各展示室に私の作品が掛かっている。中でもひときわ目を引くのは、その数3000冊を越える膨大な蔵書のある野村氏の書斎であるが、主として天才詩人アルチュ―ル・ランボ―の研究書が多く、その壁面には、フランスのランボ―ミュ―ジアムにも収蔵されている私の版画「Face.of-Rimbaud」や、シェ―クスピアをモチ―フとした珍しい私のオブジェなどが多数あり、それらの作品の傍で野村氏は次々と詩を紡がれてきた事を想えば、熱い感慨が立ち上がる。……ともあれ、二十数点以上の私の作品が今後は常設でこのミュ―ジアムで観られるのである。詩とダンスの発信基地となることを目的として発足したこのミュ―ジアム、ご興味のある方は、エルス―ル財団記念館〈詩とダンスのミュ―ジアム〉を検索されて、お気軽にご覧になられる事をお薦めしたい魅力的な啓発の空間である。

 

 

 

 

 

 

……語り合いたい人が何人かいたがまたの機会にして、荻窪の会場―カラス・アパラタスB2ホ―ルへと向かった。1月の後半から2月に渡って勅使川原三郎氏と佐東利穂子さんは、招聘されてパリのシャイヨ―宮で武満徹の音楽と共に踊る長期の旅に出ていたので、お会いするのは久しぶりである。さて今回の公演「音楽の絵本」はまたしても圧巻であった。タイトルにある平明な装いとは裏腹に、絵本のように捲る1枚1枚の頁が、まるで川端康成の作品「狂った一頁」を想わせて更に華麗豪奢にして美しい狂気がそこに妖しく立ち上がる。美とは〈形而上的な毒杯であらねばならない〉と考える私の髄を突いてくる危うさを極めた、身体によって紡ぎ出されるポエジアの見事な顕現である。今回は佐東利穂子さんが更なる深みと鋼のような鋭さを見せて勅使川原氏と対峙し、正に両者の感性の刃がその切っ先を向け合うような緊張の内に、様々な音楽による聴覚からの侵犯と、視覚による身体表現の可能性が全開して私は久しぶりに酩酊の韻に酔った。……公演後にスタジオの別室で勅使川原氏と暫し話を交わしたが、それは自分が考えている〈美とは何か〉への自問を鏡に映して確認するような手応えのあるものであった。休みなく新作の公演が次々と控えているが、わけても今回の公演「音楽の絵本」(4月1日迄)、ぜひご覧になられる事を強くお薦めしたい、優れた作品である。

 

 

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『稲妻捕り』

4月1日から福井で個展があるので、午前中にアトリエで制作してから、明後日の25日まで個展開催中の画廊香月のある銀座に通う日々が続いている。……しかし、最近の私はと云えば、宮沢賢治や正岡子規の臨終前の闘病日記のような気分で、毎日、体温計を計る日々が続いている。昨年までは体温が36.8度と、こども並みに高かった体温が何故か急に下がり、信じがたい34.7度あたりをふらふらしているのである。周りの人は〈よく生きていますね〉と首をひねるが、別な体温計で計っても指す数字は変わらない。不整脈もあるので、まぁいつ不測の事態が訪れても、善き人生であったという気持ちのままにたぶん逝くかとは思われるが、この低体温の日々はいささか憂鬱なものがある。

 

……さてさて、突然な書き出しになるが、美術家の清水晃さんをご存じであろうか!? 舞踏の土方巽が、清水さんの作り出す、なんとも禍々しく不穏な気配に満ちた〈黒のオブジェ〉を愛し、絶賛して、清水さんに〈稲妻捕りの作家〉という言葉を作って献じたほどの異才の人である。土方が寄せる清水さんの才能への評価は高く、かの中西夏之が嫉妬したという逸話さえあるほどの、特異にして鋭いオブジェ〈黒の装置〉の作り手である。私が清水さんと知り合ったきっかけは、確か野中ユリさんからの紹介であったと記憶する。……清水さんのご自宅がある埼玉県の目沼(この名前も清水さんにピッタリである)を訪れたのであるが、清水さんご夫妻とは初めから話の波長が合い、楽しい会話が弾んだ。……すると途中で奥さまが清水さんにヒソヒソの耳打ちをしだした。(あなた、北川さんとウチの○子を……)、と聞こえた

 

途端、(おぉ、それは面白い!!)と言って、私の方を向き、(どうだろう!……良かったらウチの娘と一緒にならないか!?とニコニコしながら話されたのであった。まぁ、話は話として面白かったのであるが、もし話が進んだら、清水さんと私は義理の親子になっていた可能性もあったのだから世の中は面白い。……さてその清水さんであるが、土方巽の仕事に協力して作った舞台衣裳に凄い物がある。それは真っ赤な長襦袢に石をたくさんくっ付けた何とも、狂女を想わせる代物であるが、その衣裳を着た舞踏家の高井富子さんが〈まんだら屋敷〉という公演で踊った由である。……さてこの、石をたくさんくっ付けた長襦袢を私は実際に見たことがなく、以前から見たい見たいと思っていたら、いま開催中の私の個展に、映像作家の宮岡秀行さんが大きな箱を抱えて現れた。私は初対面であるが、話していたら、先ほど清水晃さんのご自宅に行かれて、私の事も話題に出たと言われた。私は実は以前から見たい物があって、と件の長襦袢の話をし出したら、実はいま、この箱の中にあります!!!と言って、長年私が見たかったその長襦袢が、いともあっさりと現れたのには驚いた。宮岡さんは、それをこの個展を開催している画廊香月のオ―ナ―の香月人美さんに5月の両国の舞台で着せて踊らせ、その映像を撮るのだという。……香月さんは舞踏家の大野一雄の弟子であり、この石のたくさんくっ付けた長襦袢を着て踊るには最適の人材だと思って、清水さんから衣裳をお借りして、その足で画廊に来られたという次第なのであった。

 

……長襦袢にびっしりとくっ付けた沢山の小石。……清水さんのこの着想には、しかし思い至るものがあった。それは私の子供時代に遡る。……私が小さかった頃はまだ精神病院といった洒落た物は無く、道行く人群れに混じって、時おり狂女がゆらゆらと揺れながら歩いていたものである。近所にそういう女が棲んでいて、真っ赤な襦袢を肌を露にしながら暮らしていた。小学生だった私は、そのエロチックな姿態にひかれて、学校が終わると走って帰り、その家の前の材木置場の上に上がってランドセルを置き、狂った女が家から出てくるのを、出を待つ観客のようにドキドキしながら待ったものである。想えばあれが私のヰタ・セクスアリスであったか。しかしその女は、ある日忽然と消えた。自ら火をつけたのか失火かはわからないが、真っ赤な襦袢を着て、灼熱の炎の中で絶叫したか、或いは笑ったままに昇天して消えた。翌朝、通学路にその焼け跡が無惨なままの黒の灰塵と化し、その鼻をつく臭いだけが今も私の記憶の淵にある。 ……狂女の話では久世光彦さんから面白い話を伺った事がある。〈狂女〉をテ―マにしたグラビアか何かの企画で、デビューまもない若い女優をモデルにして撮影をした事があった。……若い女優に真っ赤な襦袢を着せて土蔵の前で演じさせたが、演技がいま一つ盛り上がらない。久世さんは閃いて、その女優に道に落ちている小石を拾って投げ始めた。それにつられたかのように他のスタッフ達もまた、その女優に小石を投げている内に、女優もまた火が点いたらしく、狂った妖しい表情を浮かべながら迫真の狂女へと化していったその様を見て、久世さんはその女優の内面に凄まじい秘めた才能を覚え、この女は出てくるなと直感したという。。……はたして久世さんの読みは当たり、その女優は清楚と狂気とドスを秘めた不世出の演技を開化させていき、最高の地点で逝った。……その女優の名前を夏目雅子という。

 

私が書いた詩に、〈水ぬるみ 光はあらぬかたを指しているというのに ヴェネツィアの春雷を私はいまだ知らない〉という一節がある。私は夏のヴェネツィアで、アドリアの夜の海に銀の閃光を放ちながら凄まじく落ちていく雷を何度か見た事があった。そしてその時の体験の感動のままに「ヴェネツィアの春雷」という連作のコラ―ジュを作った事があった。しかし、土方巽が清水晃さんに贈った言葉〈稲妻捕り〉という造語は、清水さんの生地が富山、土方が秋田という共に日本海側にあり、鈍色の暗い空から大地、或いは海上に落ちる雷の荒ぶる様を知っている者どうしに響き合う「頌」である。私が最も素晴らしいと絶賛する〈犬の静脈に嫉妬することから〉というタイトルを立ち上げた土方巽独自の言語感覚の成せる技なのである。美術の真の舞台裏と、その交遊の様を知らない詩人、或いは学芸員が多いが、このタイトルを瀧口修造、或いは他の作者と勘違いをしている者がいるが、間違いは正されるべきである。少し考えれば、瀧口修造の言語感覚の内にはそこまで実存的に荒ぶるものは無く、似て非なるものである事は容易に透けてくるのであるが、直感の鋭さを欠いた人には、この微妙にして絶対的な差が見えて来ないのは残念な事である。……さて、銀座の画廊香月での個展「立体犯罪学―Victoriaの黒い地図」も、いよいよ25日(土曜)が最終日となった。作品の新しい展開を観るべく多くの人が来られた。そして作品の多くがコレクタ―の人達の所有するところとなっていった。……次の個展は4月1日から福井で始まるので、その制作でかなり神経の張り詰めた日々が続いているが、先ずは、この低体温をなんとか治さねばならないと思っている私なのである。

 

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『立体犯罪学』

今月の6日から25日(土)まで、東京の画廊香月(銀座1―9―8 奥野ビル6F・1時~6時半・日・水は休み・TEL03―5579―9617)で、オブジェを中心とする個展「立体犯罪学―Victoriaの黒い地図」を開催中である。朝日新聞の美術欄に作品の写真入りで記事が載ったこともあり、連日たくさんの人が観に来られ人の絶え間がない。それは作者として嬉しい手応えであるが、いろいろな人との応対で話題を様々に変えるのがたいへんであり、またそれが面白くもある。……そして、なかなかお会い出来ない遠方の九州や北海道からもコレクタ―の方が来られるので、個展は嬉しい再会の場でもあるのである。……ところで、話は遡るが、私は1月の引っ越しで大変な失敗を犯してしまった事に、個展の案内状を出す段になって気がついた。友人や知人の住所と電話番号を記した大切なノ―トを何冊か紛失してしまった事に気がついたのである。……だから、このメッセージを読まれている方で案内状が毎回届くのに、今回は届かなかった人がおられたら、その名簿の中に記録されていたのだと思って、ご容赦いただきたいのである。……基本的にアナログな考え方なので、時折このような失敗をしてしまう事がたまにキズなのである。東京の個展が終わると、すぐに福井での個展があり、5月10日からは、明治座から近い日本橋濱町のギャラリ―・サンカイビで新作写真展を開催する事になっており、昨日の午前中、銀座の個展会場に行く前に打ち合わせをおこなった。画廊のオ―ナ―の平田さんは、個展案内状を四つ折りにし、チラシもかなり凝った内容にする考えである事を知り、私もその気持ちに応えるべく熱くなってくる。しかし、写真の内容に幅があるので、それらを絡めたタイトルがまだ浮かばないでいる。私には珍しく難産なのである。……しかし、間もなくそれは神の啓示のようにして突然舞い降りてくるかと思われる。私は、その瞬間に網を張り、それを瞬間的に捕まえる狩人とならねばならない。……「稲妻捕り」……そう、その時、この言葉が私には相応しい。次回は、この「稲妻捕り」という言葉についての知られざる秘話を書こうと思う。

 

 

 

 

「立体犯罪学―Victoriaの黒い地図」

日時:3月6日(月)〜25日(土) 午後1時~6時30分(定休日:日・水)

場所:「画廊香月」 中央区銀座1―9―8 奥野ビル6F・TEL03―5579―9617)

 

 

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『次々と個展の企画が……』 

新しいアトリエに2トン車で4台分の荷物を運び入れて、ようやくの引っ越しが片付いた。2メ―トル40センチ幅の巨大な作業台2つがアトリエに配置され、制作が順調に進み、新作が次第に形になっていく。……今年の春は引っ越しの後に休む間もなく、3月(東京)、4月(福井)、5月(東京)と個展の予定が入っており、すぐに切り換えて集中的に制作に専念の日々が続いているのである。そして先ずは3月6日からの4回目となる個展が、銀座・画廊香月で明後日から始まろうとしている。四年前に、尊敬する先達の画家の池田龍雄さんから「もし良ければ1度、画廊香月で個展を……」というお話があり、池田さんからの話ならばと前向きになって実現して以来、毎年、この画廊での個展がだいたいこの時期に開催するのが定着して、早くも連続4回目である。画廊香月での個展は3月25日で終わるが、次は4月1日から、福井の画廊サライでの2年ぶり2回目となる個展が4月末日まで開催され、5月からは、昨年の夏から秋にかけてパリとブリュッセル、そしてロ―マで撮影した写真展が、明治座近くにあるギャラリーサンカイビで開催する予定で、いま最後のプリントの段階まで作業が進んでいる。そして秋には高島屋・美術画廊Xでの連続10回目となる個展の企画が入っており、また新たな表現領域での展開を計るべく、脳裡の中でじわじわと構想が立ち上がってきている。継続は力なりという言葉を裏付けるように、高島屋の今年の開催時期を問い合わせる熱心なコレクタ―の方が早くもおられるが、表現者としてなにより燃えてくる話であると思っている。…………今日は画廊での展示作業があるので、今回のメッセージは概括的なお知らせに終始してしまったが、近々に書く予定のメッセージでは、また興味ある話をと、考えている次第である。

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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