月別アーカイブ: 10月 2016

『異才の人―中西夏之』 

「山頂の石蹴り」の連作や、2次元と3次元を絡めた弓形のシリ―ズなどの問題作で知られる美術家の中西夏之さんが逝去された。一定の距離をおきながらも私が現存する先達の表現者として、唯一人意識していた人だけに心中よぎるものがある。……澁澤龍彦氏の1周忌の折、私と中西さんは北鎌倉駅から浄智寺へと、そぼふる雨の中、相合傘で歩きながら話に没頭しすぎたあまり、間違って無人の東慶寺の奥に入っていってしまった事、……また別な時に池袋で、西脇順三郎以後の最も優れた詩人―吉岡実さんとの三人で話した、表現者としての矜持に関わる濃密な話しなどを思い出す。……最後にお会いしたのは、鎌倉近代美術館で個展を開催した加納光於さんのレセプションの二次会の酒宴の時であった。……私はこの時は中西さんが、かつて土方巽の舞台装置として突きつけた、触れれば切れる「真鍮板」の着想の妙について言及した。多くの美術家達が土方から装置を依頼された時に、彼らが作ったのはオマ―ジュでしかなかったが、中西さんの真鍮板は、中西夏之の側に土方を巻き込む難題を先鋭的に提示したものであったかと思う。私はその事を珍しく中西さんに熱く語った。……話しがそのまま続けば形而上学の話しになるところであるが、この日の私の語りは急に飛び、年長者の中西さんに向かって「誠に男子の気概とは、そのようなものでありたいですなぁ!!」と言い放った。……美術家の宴会が一転して、そこだけが幕末の京都、祇園の座敷で気炎を挙げる高杉晋作や久坂玄瑞の口調で話しは終わり、……この異才とは、それが現世での最後の会話となってしまった。………………私のアトリエには、その中西さんの作品が一点ある。それは正面性と反対称を主題とした中西芸術の根幹を成す作品であるが、私はその作品を見ながら、この謎多き異才のやり残した問題について、私なりに絡めとりながら考えていく事になるであろう。

 

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『危うさの角度』

先日の17日に、高島屋美術画廊Xで三週間開催されていた個展「Glass  Obsession―スピノザの皮膚の破れ」が手応えのある盛況の中で終了した。年々増えている来廊者の数。……そして今回の個展では、一度ご覧になった方が再び来られて、名残惜しそうにじっくりと作品をご覧になる姿が目立った。私の未知の方達のツィッタ―などの書き込みでも「格が違う」「最高にハイレベルな展覧会を堪能した」……といった感想が数多く見られ、打てば響くという手応えを覚えた。やはり人々は、美が強度の内に在るという事を感じ取っているのであろう。……会期中、私は毎日その広い画廊の中に在って、訪れて来られた旧知の人達との貴重な会話を楽しみ、また今回、縁あって新たなコレクタ―となられた人達との、作品が取り持つ不思議な、強い出会いに感謝した。……そして、来訪者のふと絶えた静かな時間に、私は今回作り上げた作品群の意味と「かたち」について自問した。制作時にアトリエにあった作品群はいまだ生々しい。それが、画廊の中に運ばれて展示される事で客観性のフィルターを帯び、ようやくにして見えてくるものがあるのである。……そして、次なる主題が、パリにかつて存在した異形な建築物「トロカデロ」なるものから既に立ち上がってきている事を会期中に感じ取り、美術画廊Xで私の個展を第一回目からプロデュースしていただいている福田朋秋さんにだけ打ち明けた。……そして持参してきたその建築物の沢山の写真を見てもらい、現時点での、未生でイノセントなままの私の次なる主題の共有が早くも始まった。まさに美術画廊Xでの個展は、福田さんと私との共同作業から毎回始まっているのである。……おそらくは、全く意外な幾つもの方向性へと転じていくであろう、この「トロカデロ」。私は企画・構成力において抜群のセンスを持つこの福田さんに全幅の信頼を寄せているが、次に攻めるべき新たなイメ―ジの領土を共有し合う事で、早くも私達は次の個展へと歩み出しているのである。

 

さて、日本橋高島屋の美術画廊Xでの個展が終了して、例年ならば暫くの休養に入るのであるが、今年の私はそうはいかない。……11月3日―26日まで、名古屋のSHUMOKU  GALLERYで開催される私の個展「危うさの角度」に出品する為の新作オブジェを制作しているのである。……名古屋では以前にも何回か個展を開催してきたが、版画や写真が主であり、オブジェやコラ―ジュをまとめて発表するのは今回の個展が初めてである。名古屋は、名古屋ボストン美術館館長の馬場駿吉さんをはじめ、長いおつきあいの方々も多く、馴染みの深い土地である。とはいえ、11月からの私の個展がいかなる形作りを成していくのかは、勿論未知数であり、それだけに期待もまた大きいものがある。……この個展についてはまた今後のメッセージで詳しく書く予定であるが、ともかく、まだ暫くは制作に追われる日々が続くのである。

 

 

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『個展、いよいよ最終章へ』

日本橋高島屋6階・美術画廊Xの個展が17日が最終日なので、いよいよ残り二日間となった。今回の作品は制作中から手応えを感じていたが、来廊する多くの人達から作品の完成度の高さを指摘され、個展の反響は今までで最も高く、再度来られる人達が何人もおられた。……。新しいコレクタ―が(それも若い世代の方々が多く)かなり増えたが、何度か来られて、結局お一人で10点のオブジェを買われた方、3点のオブジェを買われてロンドンに持ち帰られた画商の方、……そして、究極の1点を絞りこんでコレクションされた多くの方々、……かくして実に数多くの作品がコレクションに入り、これからはその人達との長くて不思議な対話が繰り広げられて行くのである。……来年秋の、毎年連続9回目となる高島屋の個展の企画も早々と決まり、私の次なる構想は早くも立ち上がっているのである。……来年は写真展も含めて既に四つの画廊での個展の企画が決まっており、今後更に増えていくと思われるが、私の感性は次なる構想が次々と湧いており、全くイメ―ジが尽きる事はない。……さて残り二日間、この最後に来て、また面白い出合いが待っているように思われてますます楽しみなのである。

 

 

 

 

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『10月8日』

今日は、いささかインターナショナルな日であった。日本橋高島屋本店の前は、オリンピックメダリスト達のパレードで何十万人という人々でわきかえっていたが、私はその時、高島屋内の個展会場にいて、作品に当てる照明の再チェックをしていた。……そこに外国人のご夫妻が来られ、拙作のオブジェの数々を凄い集中力で観はじめたのであった。そして、画廊のスタッフを側に呼んで「This」、「This」、……and「This」と言って三点のオブジェの購入を即決で決めていった。ただ者ではないな……と思って訊くと、果たしてロンドンで画廊を商っているギャラリストであった。以前に、日本の現代美術を牽引していた佐谷画廊の企画展で、デュシャンやシ―ガルらの作品と共に私のオブジェを五点出品していたが、その時も、同じくロンドンで現代美術を商っている有名な美術商の方が即決で私の全作品を購入されたが、その時の即決の速さを、私は思い出したのであった。美意識の確かなるものを持っている彼らの直観力は、さすがに鋭いものがあり、私はそこに強い手応えを覚えたのであった。……別な個展の時にも、ル―ヴル美術館の前にあるギャラリ―のオ―ナ―が私の作品を購入し、その作品は今も売らずに画廊で愛蔵されているが、ともあれ、彼らの即断でコレクションを決めていく速さを見ていると興味深いものがある。

 

……以前にもこのメッセージ欄で記したが、パリのパサ―ジュ「ヴェロドダ」で古書店を商っているベルナ―ルゴ―ギャン氏からお手紙を頂いた事があったが、その手紙には、「君の作品を私に任せてくれたら、短期間で全ての作品を完売する自信がある。一度本気で考えてみてほしい」と記してあった。……このゴ―ギャン氏にはもう1つの顔があり、かつてはジャン・ジュネや、ウォホ―ル、ホックニ―達とも親しく、またハンスベルメ―ル作品の世界最大のコレクタ―でもあり、パリにおける人脈の厚い層を持つ。故に手紙の文面は本気であり、自信に裏付けされた力強いものがあった。作品を預けると間違いなくゴ―ギャン氏は短期間で完売する事は間違いない。……しかし、私はあえて海外でオブジェ展を開催するという考えは持っていない。……というのも、私は大量に作る作家ではなく、一点一点緻密に作り上げていく為にかなりの時間を要してしまう。……今まで作ったオブジェだけで500点以上はあるが、いま私のアトリエには全く旧作が残っていない。先に述べた海外のコレクタ―以外は、全て国内のコレクタ―の人達のコレクションに入っており、私はその事に表現者としての強い手応えを覚えているのである。

 

午後になって、昨日二点のオブジェを買われた、日本画のコレクタ―として知られる方が再び来られて、新たに追加で四点のオブジェを即決で購入され、私を驚かせた。その後で、アメリカと中国の方が各々に来られてコラ―ジュを購入された。……午前中に来られたロンドンの画商の方は、そのまま帰国されるので、手持ちで三点のオブジェを持ち帰られた。かくして個展の最初に展示されていた「ペトルス・クリストゥスの幾何学的肖像」(先のメッセージの画像に掲載した)他、つごう三点のオブジェは今はロンドンにあり、これから愛蔵されていく事を思うと、作品各々の運命に、作者としての感慨もまた立って来るのである。……個展は17日(月曜)まで開催されるが、また新たな出逢いが今週もあるように思われる。

 

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「個展会場にて」

制作時から手応えは覚えていたが、実際に個展が始まってみると、来場された方々の反応が高く、私の個展の中でも最もクオリティーの高い内容との評価が数多く返って来て、今ようやく安堵しているというのが実感である。……遠方からも旧知のコレクタ―の方々が来られ、今回の新作74点という膨大な数の中から、実に的確に作品を選ばれコレクションされていく。

 

作品を作りながら、この作品はどなたのコレクションになっていくのだろうか……と考える時があるが、それが実際に現実の形になっていくのを見ると、感慨も深い。……ともかくも今回の個展の出品作は、いずれも、見た事が無い世界が暗示的に詰まっており、作品の完成度が高い自信作である。コレクタ―の方で2点まとめて購入される方も何人かおられるが、その決断も客観的に観ていてよくわかるものがある。

 

個展が始まって、ようやく1週間が経過し、まだ2週間が残っている。3週間という会期はちょうど良い、手応えのある長さなのである。……7日(金)は、夕方から個展会場を不在にするが、それ以外は毎日、10時半から19時半まで会場につめている。また新たな出会いがこれから待っていると思うと期待が膨らむのである。

 

 

 

 

 

 

 

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北川健次詩集『直線で描かれたブレヒトの犬』
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