……制作が終わり、眠る前には本を読む習慣であるが、最近は座談集を読むことが多い。なんとも深い眠りに入っていけるのである。……先日読んで面白かったのは、哲学者の『和辻哲郎座談』(中公文庫)。役者が揃っていて実に内容が濃い。座談相手は谷崎潤一郎、志賀直哉、斎藤茂吉、寺田寅彦、幸田露伴、柳田國男……他。
また江戸川乱歩の『乱歩怪異小品集』に所収されている座談「狐狗狸の夕べ」も面白かった。乱歩の相手は三島由紀夫、芥川比呂志、杉村春子……他。ちなみに三島由紀夫は狐狗狸やUFOの存在を信じており、自宅屋上にUFO観察の為の天体望遠鏡まで設置し、小説『美しい星』ではそれを主題に異色作も書いている。もっとも私ども表現に関わる者は、不可思議、視えない「気」との対話、此処ではない何処か彼方への希求、理屈や常識では捕らえられない物との交感をもって、表現、更には美が成り立っていくのであるから、この好奇心は表現者たるものの前提に在るべき資質ではあろう。
……また泉鏡花の『鏡花百物語集』中の座談「怪談会」は、相手が芥川龍之介、菊池寛、久保田万太郎……他。「幽霊と怪談の座談会」では鏡花と柳田國男、小村雪岱……達と、向島百花園や吉原の茶屋で、柳橋、赤坂、芳町の芸者や帝劇の女優、そして名だたる作家達を集めて徹夜での納涼怪談話が頻繁に行われた、その記録である。……昨今の虚しい程に明るい、無機質で不毛な時代と違い、闇が闇として豊かな気配を発していた時代の、何とも不気味で、しかし郷愁さえそそられる話が満載で、しつこいオミクロンの話など屁のように小さく思われて来て、メンタルに実に良い。…………さてこのように書いてくると、昔、私にもあった不思議な話が幾つか甦って来たので、今回のブログは少しそれを書いてみようと思う。


……昔、哲学者の梅原猛や先代の三代目市川猿之助などが贔屓にしていた京都・祇園で名花と謳われていた芸妓がいた。私は妙なご縁があって、その方の白川河畔のご自宅で深夜まで話し込んでいた事があった。祇園……と云っても残念ながら粋で艶めいた話ではない。私達が熱心に話していたのは「怪談話」なのである。祇園一力や甲部歌舞練場の秘話、四条南座の廻り舞台裏に現れる怨霊と化した歌舞伎役者の話、耳塚、一条戻橋……の話などなど。昔から京都の暗い夜に現れる百鬼夜行の尽きない話。……そして彼女が自分の体験として語ったのが次の話。
…………彼女がまだ舞妓の頃であったと記憶する。お座敷を終えて置屋に帰り、階段をとんとん……とんと上がって部屋に入ったその瞬間、「お疲れさんどしたなぁ」というくぐもった老婆の低い声がした。「姐さん、おおきにどす」……いつもの調子で返事を返したが、その瞬間ぞぞっとするものが背筋を走った。……その老婆は置屋で長年、身の回りの世話をする仕事をしていたが、半年前に体調を崩し、故郷の小浜に帰っていた筈で、その部屋は他に誰もいないのである。最初は習慣から聴こえた唯の空耳かと思ったが、見回した部屋が無人である事にあらためて気づいた瞬間、少し開いていた目の前の窓の向こうの暗闇で、何かが、ザザァ―とずり堕ちていく冷たい気配がしたという。……そして数分して階下の電話が鳴った。下りて受話器を取ると、はたして聴こえて来たのは、小浜からかかって来たその老婆の息子の聲であった。「…先ほど母が亡くなりました。今まで長い間、本当にお世話になりました。ずっと床についていましたが、母は………」と話す言葉が、ずいぶん遠くからひんやりと小さく聴こえたという。


…………坂本龍馬も京都・河原町の近江屋で斬殺された正にその直後、長州にいた妻のお龍、そして越前藩の三岡八郎(後の由利公正)の遠く離れた二人の前に、お龍の場合は血まみれになった龍馬が血刀を下げてうっすらと立ち、三岡の場合は足羽川という川の橋を渡っている途中で突然の物凄い突風が吹き荒れ、三岡の懐に入れてあった、5日前に京都に戻る際に、渡された龍馬の写真が一瞬で何処かに消え、直後に何事も無かったかのように突風が消えた……というのは、史実に遺っているあまりにも有名な話である。……自分がいなければ勝ち気なお龍は生きていくのが難しい。また、維新後の政府には金が全く無いが、それを作れる才は三岡八郎にしか無い。……愛する女性と、新政府樹立後の屋台骨である経済の舵取り。……この場合は同時に2ヶ所に現れた何とも忙しい話であるが、一番気になっている所に霊魂が翔ぶ、これ等はその実例である。……これに似た体験談は私にもあるが、それはまたいつか語ろうと思う。
…………さてここに至ってふと気がついた。今回のブログを一生懸命に書いた為に、前々回と同じくまたしても紙面が尽きてしまったのである。なので、タイトルにも書いたVeneziaに今も実在するダリオ館(館の主人が次々に自殺するので有名な館)の詳しい話は、残念ながら次回になってしまった。(伏してお詫びいたします。) ……次回は一転して、コロナ収束後に貴方にも体験ツア―が可能な怪奇譚の話を冒頭から書きます。……乞うご期待。



……勅使川原氏の金獅子賞受賞の知らせが入って来た時、まさに偶然であるが、アトリエの奥にしまってあった、初めてのヴェネツィア行の時、私が厳寒の冬のヴェネツィアで二週間ばかり滞在していたホテル―Pensione Accademiaのパンフが出て来たので、往時をまさに想いだし、次回の撮影の時はまた泊まろう!……と思っていた時であったのは面白い偶然である。運河に面したこのホテルは、もとロシア領事館だった建物で、庭に古雅を漂わせた彫刻が在り、何より部屋が広く、静かで、しかも安いという穴場のホテルなので、このブログの読者には、機会がある時はぜひにとお薦めしたい宿である。アカデミア橋近くに在る、





その池内さんの視点は一言で言えば性善説である。だから、本の中で書かれた恩地孝四郎像は内面の生々しい暗部には安易に斬り込んでいない。それでも、この国における創作版画の立ち上げと、日本人で初めて抽象絵画を表現した人、この



………さて、その地震、昨年秋から太平洋沖側に頻発しているが、先日ふと考えた事がある。……では具体的にどの県が、地震は確率的に最も安全なのか?と。……皆さんは何処だと思われるであろうか?私はたぶん山口県辺りかと思っていたが、タブレットで検索してみると、地震から最も安全な県は実は「富山県」なのであった。意外であったが、すぐになるほどと思い、あの屹立する立山連峰の屏風のような堅牢さを思い出し、すぐに富山県在住の親しい人達の顔が浮かんだ。ぎゃらりー図南で長年にわたり個展を開催して頂いている川端秀明さんご夫妻、お世話になっているコレクタ―の今村雅江さんはじめ沢山の人達の顔が浮かび、ふと、あぁ富山の人達はいいなぁ……と、そう素直に思った。出来れば難を逃れるように、半年ばかりは富山に疎開したいと思うのであるが、東京に戻ったその直後に「すわ!……地震だ!!」という事もあり得る。
森鴎外の長女の









